日々雑感

日々思うことの備忘録です.

読書録:科学者が消える: ノーベル賞が取れなくなる日本

これも日経サイエンスの書評で見つけた本である.たしか,社会と科学の関係に関する本がまとめて紹介されている号があったので,最近,そのような本をまとめて読んでいる.

さて,この本は,日本で学術研究を担っている大学の現状を紹介し,それが危機的な状況であることを訴えているものである.現場にいるものからすれば,大学の状況が良くないことはかなり以前からの話で,多くの研究者がそれを訴えてきているところであるが,この本は研究者ではない(つまり,ある意味で中立的な立場の)ライターが書いているものである点で取り上げられたのであろう.

著者の価値観にそのまま同意するわけではないが,この本で紹介されている大学教員の声はそのままそのとおりだと思うし,著者の結論である「研究機関と教育機関を分離せよ」というのは解決策の一つであると思う.これは「大衆化する前の大学」を新しく作るということなのかもしれない.あるいは,OISTのような大学を新設するということかもしれない.また,実務家向けのコースと研究者向けコースが別になっているドイツはそれに近いのかもしれない.

ここからは個人的な考えだが,研究者独自のアイディアでこつこつ進める学術研究というのは,一種「藝術」のようなものだと思う.そういう意味で「学術研究」というのは「文化」「藝術」と同じように扱ってはどうかと思う.そして,毎年国の予算(GDPでもよい)の一定の割合をそのような研究に対して「見返りを求めずに」投入するというのはどうであろうか.だいたいそういった研究をする人は「大きなお金はいらないから自由に好きなことをやらせてくれ」という人たちであるから,重点政策とかいった形で大きな予算を集中投下する必要はない.ただ,そういった研究を担う人の見極めだけはきわめて重要である.