日々雑感

日々思うことの備忘録です.

読書録:「皮膚感覚と人間のこころ」

皮膚感覚の生理メカニズムを専門とする著者による著作である.身体技能を実行するうえで,皮膚感覚は本質的に重要な役割を果たしていることはいうまでもない.皮膚感覚は環境の中での自分の状況や,他者(人であれ物体であれ道具であれ)の状態を知るうえで,多様なじょうほうを提供してくれている.そのメカニズムについてあらためて勉強してみようと思って読んだのが本書である.実際,皮膚感覚がもつさまざまな側面について最新の知見をわかりやすく紹介したもので,いろいろと勉強になった.

一番勉強になったのは,皮膚への機械刺激を受容するメカニズムについてである.かなり以前に,人間の触知覚メカニズムに興味をもち,皮膚のセンサ構造を参考にして手触り感を識別するセンサシステムを構築するという研究をしたことがある.このときに勉強した内容は,皮膚の中には時空間特性の異なる4種類の機械受容器があり,それらの情報が総合されて触覚がもたらされるということであった.最近でも,触覚に関する解説記事ではそのような説明がなされていることが多い.しかし,著者らの研究によれば,表皮に含まれるケラチノサイトという細胞が微小な機械刺激に対して反応し,その出力が神経線維に伝わって神経細胞に興奮をもたらすことが明らかになっているらしい.ケラチノサイトへの刺激がどのような脳活動を引き起こすのかは説明されていなかったが,いずれにせよ,古くから知られている機械受容器以外に,機械的刺激を受容するメカニズムがあることを知ったのは大きな収穫である.

それに加えて,皮膚が光刺激や音刺激に対しても応答することも興味深い内容であった.例えば,音楽を聴くときに耳だけでなく皮膚への刺激も重要な役割を果たしているらしい.本書では大橋力氏による民族音楽の知覚(?)に関する研究が紹介されていたが(大橋力氏の研究については別の機会に述べたい),電子ピアノとアコースティックピアノの違いも,皮膚感覚の違いによるかもしれないとと思った.自分は電子ピアノはいくら高級なものでも弾いたときに「弾き甲斐」がない感じがするのであるが,これは共鳴板をもたないために空気の振動としてのパワーが少ないためなのかもしれない(間違いかもしれないが...).