日々雑感

日々思うことの備忘録です.

試験監督

仕事柄,年に何回か試験監督をする機会があるが,そのたびに思うことは,ふと顔をあげた学生と目があうということである.

これはなんでもないことのようにも思えるが,意外と不思議なことである.というのも,別のその学生のことをずっと見ていたわけではないからである.ある学生をずっと見ていてその学生が顔を上げた瞬間に目が合ったわけではない.試験室全体をぼおーと見ているにもかかわらず,顔を上げた学生と目が合うからである.

このようなことが起きる(できる)のはなぜだろうか? 考えられる一つの理由は,人間の無意識の処理過程が,周囲と違う振る舞いをしている学生を検出してそこに対して視線を向けさせている,ということである.つまり,その学生に視線を向ける動作そのものは無意識のうちに行われているので,ふと気づくとその学生と目があったように感じられるということである.これは,視覚探索におけるポップアウト現象とも関連しているのかもしれない.いずれにしても,そこに目をむけさせているのは無意識の働きではないかということである.

これとよく似たことは,自動車を運転しているときに危険を察知する場面である.何年も運転していると,たまに,急に飛び出してきた自転車にぶつかりそうになるなどヒヤッとする経験をすることがある.これは本当に肝を冷やす体験であるのだが,一方で,自転車にぶつかる前にそのことに気づいたということは,自分はその危険を察知できたことを意味している.それなのにヒヤッとするのは,意識のレベルではそのことに気づいていないかったからである.なぜなら,あらかじめ自転車に気づいていたすればヒヤッと感じることはないだろうからである.それでも,自転車が飛び出してきたことに気づいたのはやはり無意識の処理系の仕業ではないだろうか.意識にのぼらない視覚情報処理系が景色の中に予想していない刺激が急に出現したことを検出して,そこに視線を向けさせたのではないか,ということである.

ここに書いたことは私の単なる想像であって根拠のあることではない.しかし,もしここに書いたように,無意識のシステムの働きが人間の生活の中で重要な働きをしているのであれば,そのシステムが十分に働けるような状態を保つことが大事なことだということになろう.